海外出張の経費はどの為替レートで精算するか
外貨建ての経費の円換算は、取引日の電信売買相場の仲値が原則です。継続適用を条件に支出を電信売相場で換算することも、前月末のレートを社内レートにすることもできます。根拠の通達と規程の書き方を整理します。
海外出張から戻った社員が現地通貨で払った分を、どの日の、どのレートで円に直すか。これは会社が自由に決めてよいものではなく、原則が通達で決まっています。法人税基本通達13の2-1-2は、外貨建取引の円換算を、その取引を計上すべき日(取引日)における対顧客直物電信売相場と対顧客直物電信買相場の仲値によるとしています。そのうえで継続適用を条件とする例外を置いており、実務で使われている「社内レート」はこの例外に根拠があります。中小企業の経理・総務の方に向けて、根拠と、規程に何を書くかを整理します。
原則は取引日の仲値、例外は継続適用が条件
使える為替相場は3通りあり、原則以外はいずれも継続適用が条件です。
| 区分 | 使える為替相場 | 条件 |
|---|---|---|
| 原則 | 取引日の電信売相場と電信買相場の仲値(TTM) | なし |
| 例外1 | 仕入その他の費用および負債は取引日の電信売相場(TTS)、売上その他の収益および資産は取引日の電信買相場(TTB) | 継続適用 |
| 例外2 | 前月末・前週末の相場や、1月以内の一定期間における平均値など、合理的と認められる為替相場 | 継続適用 |
出張の経費は「仕入その他の費用」の側に立つので、例外1を採るならTTSになります(国税庁 法人税基本通達 13の2-1-2 外貨建取引及び発生時換算法の円換算 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/13_2/13_2_01.htm )。
要点は、例外が「継続適用を条件として」認められていることです。精算のたびに有利な側のレートを選ぶ、という使い方は条件から外れます。どれを採るかより、採ったものを続けられるかで決めてください。
社内レートを置いてよい根拠は、通達の注書き
「換算レートは社内規定で決める」とだけ書かれた解説が多いのですが、決めてよい根拠は同じ通達の注書きにあります。
注書きは、電信売相場・電信買相場・仲値について、原則としてその法人の主たる取引金融機関のものによるとしたうえで、同一の方法により入手した合理的なものを継続して使用している場合にはこれを認めるとしています。さらに、取引の内容に応じて合理的と認められる為替相場として、取引日の属する月や週の前月末日・前週末日の相場や、1月以内の一定期間における仲値・電信買相場・電信売相場の平均値などを挙げています。
つまり社内レートは「自由に決めてよい」のではなく、合理的な相場を継続して使うなら認められる、という形です。だから規程には、レートの数字ではなく、どこから取るかと、いつの時点のものかを書きます。
個人事業主も考え方は同じで、所得税の側に同じ内容の通達があります(国税庁 所得税基本通達 法第57条の3《外貨建取引の換算》関係 57の3-2 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/11a/01.htm )。
外貨で払っていなければ、そもそも換算しない
換算の話に入る前に、その支出が外貨建取引なのかを見てください。法人税基本通達13の2-1-1は、取引の金額が外国通貨で表示されていても、その支払が本邦通貨で行われるものは外貨建取引に該当しないとしています(前出 13の2-1-1)。
この線で分けると、精算の実務は3つに分かれます。
- カード会社から円建てで請求される分 — 会社が支払うのは円です。利用明細の円の金額が支払額になるので、どのレートを使うかという問題はここでは起きません
- 日本で両替して現地通貨を持って行った分 — 両替した時点で円を払って外貨を得ています。両替時の計算書を残してください
- 現地通貨で払い、会社が後から円で精算する分 — ここだけが、上の表のレート選択が効く範囲です
最初に分かれ道を置くと、精算書で見るべき欄が減ります。なお、どの処理になるかは契約や決済の形で変わるため、金額の大きいものは顧問税理士に確認してください。
消費税も同じ扱いに準じる
国税庁の質疑応答事例「外貨建取引の課税標準」は、外貨建取引に係る消費税の課税標準について、消費税法基本通達10-1-7により、所得税基本通達57の3-2および法人税基本通達13の2-1-2の取扱いに準ずるとしています。仲値による方法のほか、継続適用を条件として、資産の譲渡等の対価は電信買相場、課税仕入れに係る支払対価は電信売相場による方法が認められ、為替差損益に相当する部分は対価の額に含めず、課税対象外として扱うとされています(国税庁 質疑応答事例 外貨建取引の課税標準 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/14/06.htm )。
法人税と消費税で別のレートを使う必要はない、ということです。ただし海外で受けた役務の提供そのものが消費税の対象になるかは別の論点で、国内と扱いが入れ替わります。切り分けは海外出張の旅費規程で国内と分けて決めることに置きました。
規程に書く4項目
- どの相場を使うか — 仲値か、継続適用を条件に電信売相場か
- いつの時点のものを使うか — 取引日か、前月末日・前週末日か、1月以内の平均値か
- どこから取るか — 主たる取引金融機関の相場か、それ以外なら、同一の方法で入手でき継続して使える出どころ
- 変えるときの扱い — 継続適用が条件なので、期の途中で有利な側へ乗り換えない。変えるなら、理由と適用開始の時期を残す
あわせて、外貨で仮払いを渡したときに、仮払時と精算時のレートの差をどちらの側で持つかも条文に書いておくと、精算のたびの相談が減ります。日当を規程で円の定額と決めているなら、日当には換算が起きません。換算が効くのは実費精算の部分だけです。日当の決め方は出張日当の計算方法と金額の決め方にあります。
よくある間違い
- 精算のたびに有利な側のレートを選ぶ。例外はいずれも継続適用が条件です
- 「社内レートは自由に決められる」と考える。合理的な相場を継続して使うことが前提です
- カード会社から円建てで請求された分まで、レートを当てて換算し直す
- 規程にレートの数字を書き込む。書くのは出どころと時点です
- 規程で円の定額と決めた日当まで、換算の対象にする
- 両替の計算書を残さない。円でいくら払って外貨を得たのかを示すものがなくなります
まとめ
- 外貨建ての経費の円換算は、取引日の電信売買相場の仲値が原則です。継続適用を条件に、費用は電信売相場によることもできます
- 前月末や1月以内の平均値を社内レートにしてよい根拠は通達の注書きにあります。自由に決めてよいという意味ではなく、合理的な相場を継続して使うことが条件です
- カード会社から円建てで請求される分は外貨建取引に当たらないため、換算の問題は起きません。精算書で分けるのはこの線です
仕訳の形まで含めた精算の流れは旅費交通費の仕訳と出張精算の会計処理にあります。Tabikan は規程に書いた換算の決まりを設定として持ち、そこから外れた精算だけを人に見せます。