出張日当の計算方法と金額の決め方
日当の計算は単価×日数です。止まるのは対象にする移動の線引きと日数の数え方。出張の線の引き方、数え方の3方式と計算例、所得税・消費税の扱いを整理します。
出張の日当は「1日あたりいくら」を決めて払う定額の支給です。計算式そのものは単価に日数を掛けるだけですが、実務で手が止まるのは単価ではなく日数の数え方のほうです。出発日と帰着日をそれぞれ1日と数えるのか、半日の出張はどう扱うのか、機内泊はどちらの日に付けるのか。この記事では、日当の計算を分解し、どの移動を対象にするかの決め方、日数の数え方、単価を決めるときの根拠、所得税と消費税の扱いまでを順に扱います。想定しているのは、日当の規程をこれから作る、あるいは運用の問い合わせが減らない中小企業の経理・総務の方です。
日当は何に対する支給か
日当は、出張中に発生する食事代、現地での細かな移動、通信費などの雑費に充てるための定額の支給です。交通費や宿泊費のように領収書を集めて実費を精算する代わりに、一定額を渡して精算の手間をなくす、という性格のものです。
ここを先に押さえておくと、後の判断がぶれません。日当の対象に含めた費目は、領収書でも精算できる建て付けにしてはいけません(実質的な二重払いになります)。逆に、対象外と決めた費目、たとえば取引先との会食のような接待に当たるものは、日当とは別に処理します。
計算式は単価×日数。決めることは3つ
日当の額は次の式で出ます。
日当 = 日当単価 × 対象日数
したがって、規程で決めることは3つに整理できます。
- 単価の区分。 日帰りと宿泊で分けるか、役職区分ごとに分けるか、国内と海外で分けるか。
- 日数の数え方。 どの日を1日と数えるか。半日をどう扱うか。
- 減額・不支給の条件。 食事が主催者側から提供された日、研修先で食事が出る日など。
このうち実務で問い合わせが集中するのは2です。単価は表を見れば分かりますが、日数は出張のたびに解釈が要るためです。
どの移動を日当の対象にするかを先に決める
日数を数えられるのは、その移動を「出張」と数えると決めたあとです。日当の計算で最初に手が止まるのは、多くの場合、日数の数え方ではなく「この日帰りの外出は出張に入るのか」のほうです。出張の範囲を一律に定めた基準は見当たらず、各社が出張旅費規程で線を引いているのが実情なので、まずこの線を自社で決めます。
線の引き方は、次の3つの軸のどれか、または組み合わせです。
| 軸 | 見るもの | 向いている会社 | 決めたあとに起きること |
|---|---|---|---|
| 距離 | 勤務地から目的地までの片道の距離 | 担当区域が地図で分かれている | 地図と経路検索で誰でも同じ判定ができる |
| 拘束時間 | 会社や自宅を出てから戻るまでの時間 | 近距離でも一日がかりの訪問が多い | 出発と帰着の時刻を申請に書かせる必要が出る |
| 宿泊の有無 | 泊まるかどうか | 遠方が中心で日帰りの外出が少ない | 日帰りの外出には日当が出なくなる |
自社の線は、過去の移動から引く
他社の基準をそのまま写すと、自社の移動の実態とずれて例外だらけになります。手元の記録から引いてください。
- 直近3か月から1年の出張・外出を、行き先、片道の距離、出発と帰着の時刻、宿泊の有無の4列で書き出す。
- 1件ずつ「日当を出したい」「出したくない」に仕分ける。決めきれないものには、そう印を付ける。
- 2つの群が分かれる位置を探し、その境目に基準を置く。印を付けたものが境目に固まっているなら、そこは基準で切らず、個別の承認で扱うと決める。
この順で決めると、基準の数字に「なぜその値なのか」という説明が残ります。見直すときも、同じ表を作り直せば足ります。
通勤と重なる区間の扱いまで書く
線を引いたら、もう1つ決めることがあります。通勤の経路と重なる区間を、出張の移動に数えるかどうかです。定期券を持っている区間を通って目的地へ向かった日に、日当の対象にするのかしないのか。ここを書いていないと、同じ行き先でも担当者ごとに結論が変わります。
規程に書くのは、次の4つです。
- 日当の対象になる移動の基準(上の軸と、その数字)
- 基準を満たさない移動の扱い(交通費は実費で払うが日当は出さない、など)
- 例外を認める人と、認めるときの手続き
- 基準を見直す時期
規程そのものに何をどの順で載せるかは、出張旅費規程の作り方と決める7項目にまとめています。
日数の数え方を決める
よく使われるのは次の3つの方式です。どれが正しいということはなく、自社の出張の実態に合うものを選んで規程に書きます。
| 方式 | 数え方 | 向いている会社 |
|---|---|---|
| 暦日方式 | 出発日から帰着日までの日数をそのまま数える | 宿泊を伴う出張が中心 |
| 宿泊数+1方式 | 宿泊数に1を足した日数を数える | 同上。暦日方式とほぼ同じ結果になる |
| 時間区分方式 | 出発・帰着の時刻で全日と半日を分ける | 日帰りや短時間の出張が多い |
時間区分方式を採る場合は、境目の時刻を規程に書き切ってください。「午後出発は半日」ではなく「12時00分以降の出発は半日」のように、時計を見れば誰でも同じ結論になる形にします。
あわせて次の場面の扱いも決めておくと、問い合わせはほぼ止まります。
- 自宅から直接出張先へ向かった日、出張先から直接帰宅した日
- 機内泊・車中泊(宿泊費は出ないが日当は出るのか)
- 出張が中止・短縮になったとき
- 移動だけで実務のなかった日
- 休日をまたいだとき(またいだ休日にも日当を出すのか)
計算の例
仮に自社の規程で「一般社員の宿泊日当は1日3,000円、日帰り日当は1日1,500円、日数は暦日方式で数え、先方が食事を用意した日は半額」と決めたとします。以下の金額は法令上の基準でも相場でもなく、計算の流れを追うための仮の数字です。
| 出張の形 | 日数の数え方 | 計算 | 日当の合計 |
|---|---|---|---|
| 日帰り | 1日 | 1,500円×1日 | 1,500円 |
| 1泊2日 | 暦日で2日 | 3,000円×2日 | 6,000円 |
| 3泊4日 | 暦日で4日 | 3,000円×4日 | 12,000円 |
| 2泊3日、最終日は先方が昼食を用意 | 暦日で3日のうち1日が半額 | 3,000円×2日と1,500円×1日 | 7,500円 |
端数が出る規程(半額の設定や日割りを入れる場合)は、**切り上げ・切り捨てのどちらにするかも書いてください。**書いていないと担当者ごとに結果が変わります。
単価はどう決めるか
**法令に「日当は1日いくらまで」という金額の定めはありません。**上限額が条文にあると誤解されがちですが、判定は金額そのものではなく、その支給が「その旅行に通常必要とされる費用に充てられる範囲か」で行われます。国税庁の所得税基本通達9-3(非課税とされる旅費の範囲)は、旅行の目的、目的地、行路や期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容や地位などから判定するとしたうえで、判定に当たっては、支給額が役員と使用人の全てを通じて適正なバランスの保たれた基準で計算されているか、また同業種・同規模の他の事業者が通常支給している額に照らして相当か、を勘案するとしています。
つまり、単価の根拠になるのは次の2つです。
- 社内のバランス。 役職区分ごとの差が説明できる幅に収まっていること。役員だけが突出した単価は、この点で説明が難しくなります。
- 社外との比較。 同じ業種・同じくらいの規模の会社と比べて相当といえること。
決めたときに「なぜこの額にしたか」を残してください。比較した資料、決議の日、改定前の額。これがないと、数年後に説明を求められたときに誰も理由を思い出せません。
出典(国税庁・所得税基本通達の目次。法第9条《非課税所得》関係に9-3があります): https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/01.htm
所得税と消費税の扱い
日当は、計算して払ったあとの処理も所得税と消費税で分かれます。
| 論点 | 扱い |
|---|---|
| 所得税 | その旅行に通常必要と認められる範囲は非課税(所得税法第9条第1項第4号)。範囲を超える部分は給与として課税されます |
| 消費税(国内出張) | 通常必要と認められる部分は課税仕入れになります |
| 消費税(海外出張) | 海外への出張・転勤のために支給した旅費・宿泊費・日当は、原則として課税仕入れになりません |
| 帳簿の保存 | 課税仕入れとなる部分は、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる取り扱いがあります |
見落としやすいのは、消費税で「通常必要と認められる部分」を判定する物差しが、所得税の非課税の判定と同じ所得税基本通達9-3である点です。所得税で非課税の範囲に収まっていれば、消費税でも同じ範囲が対象になります。
出典(国税庁タックスアンサー No.6459 出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い): https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6459.htm
出典(国税庁・質疑応答事例「出張旅費、宿泊費、日当等に係る仕入税額控除の適用要件」): https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/18/08.htm
要確認: この記事の法令・通達に関する記述は、国税庁が公開している情報をもとにしていますが、作成時点で原文のページを直接確認できていない箇所があります。自社の処理を決める前に、上記の各ページで原文と最新の内容を必ず確認し、判断に迷う点は顧問税理士にご相談ください。
よくある間違い
単価だけ決めて日数の数え方を決めない。 いちばん多い形です。金額表はあるのに「この出張は何日分か」で毎回止まります。
日当と実費精算が重なっている。 日当の対象に食事代を含めておきながら、食事の領収書も経費で通る運用になっている例です。対象範囲を規程に明記してください。
海外出張で消費税を控除してしまう。 海外への出張のために支給した旅費・宿泊費・日当は原則として課税仕入れになりません。
役員の単価だけを大きくする。 前述のとおり、役員と使用人を通じたバランスが判定の要素に入っています。差を付けること自体ではなく、説明できない幅が問題になります。
節税を目的に単価を決める。 日当を高くすれば課税されない支出を増やせる、という発想で決めると、「通常必要」の範囲を外れる可能性があります。
まとめ
- 日当の計算は単価×日数です。規程で決めるのは、単価の区分・日数の数え方・減額の条件の3つ。詰まるのはたいてい日数のほうです。
- 日数を数える前に、どの移動を日当の対象にするかを決めます。距離・拘束時間・宿泊の有無のどれで線を引くかを、過去の移動を並べて自社で決めます。
- 日数の数え方は暦日方式・宿泊数+1方式・時間区分方式のいずれかを選び、境目の時刻と端数処理まで書き切ります。
- 単価に法令上の上限はなく、社内のバランスと同業他社との比較で相当性が判断されます(所得税基本通達9-3)。
まずは直近1年の出張を10件ほど並べ、今の運用で何日分を払っているかを書き出してください。