海外出張の旅費規程で国内と分けて決めること
海外出張の旅費は国内の金額を上げるだけでは足りません。損金になる範囲と按分、消費税が国内と逆になる扱い、外貨・保険の決め方を国税庁の資料で整理します。
海外出張を始めるとき、国内の出張旅費規程の金額を上げれば足りる、とはなりません。海外で変わるのは支給額だけではなく、損金として認められる範囲の決まり方、消費税の扱い、外貨の換算、保険の手当てだからです。この記事では、国内の規程と分けて決めるべき点を、国税庁が示している取扱いに沿って整理し、規程と申請書のどこに落とすかまでを順に扱います。想定しているのは、海外出張がこれから始まる、あるいは件数が増えて国内の規程では回らなくなった中小企業の経理・総務・経営者の方です。
海外出張で変わるのは金額ではなく4つの扱い
国内の規程をそのまま金額だけ上げると、次の4点が決まらないまま残ります。
| 決めること | 国内出張 | 海外出張 |
|---|---|---|
| 費用として認められる範囲 | その旅行について通常必要と認められる部分 | 業務の遂行上必要であり、かつ通常必要と認められる部分 |
| 私事が混ざったとき | 起きにくい | 期間の比などで按分し、業務上必要でない部分は給与になる |
| 消費税 | 通常必要と認められる部分は課税仕入れになる | 原則として課税仕入れにならない |
| 支給の前提 | 経路と等級 | 座席等級、地域区分、外貨の換算、海外旅行保険 |
いちばん大きな違いは1行目です。国内出張で「行くこと自体が業務か」が問題になることはまれですが、海外渡航費では渡航そのものが業務の遂行上必要かどうかが判定の対象になります。1件ごとに説明できる記録が要る、ということです。
費用になるのは業務の遂行上必要な部分だけ
法人が役員または使用人の海外渡航に際して支給する旅費は、その法人の業務の遂行上必要なものであり、かつその渡航のため通常必要と認められる部分の金額に限って損金に算入されます。業務の遂行上必要でない部分は、その人に対する給与として扱われます。必要かどうかは、旅行の目的、渡航先、経路、期間などを総合的に検討して判定されます(国税庁 タックスアンサー No.5388「海外渡航費の取扱い」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5388.htm )。
同じ資料では、観光渡航の許可を得て行う旅行、旅行業者が行う団体旅行、同業者団体が主催して主として観光目的で行う団体旅行は、原則として業務の遂行上必要な旅行に該当しないとされています。ただし、これらに該当する場合でも、その旅行に業務と直接関連するものがあるときは、その部分の費用は損金に算入できるとされています。根拠となる通達は法人税基本通達9-7-6から9-7-7、9-7-9から9-7-10です。個人事業主の場合は、所得税基本通達の〔海外渡航費〕(37-16以下 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/08.htm )に定めが置かれています。
規程の側でやることは2つです。何を海外出張として扱うのかを定義すること、そして申請書に目的・渡航先・経路・日程・面談や視察の相手を書かせ、出張ごとに残す運用にすることです。判定の物差しがこの4つなので、書類に載っていなければ後から説明する材料がありません。
観光を兼ねたときは日程で分ける
業務の遂行上必要な旅行と必要でない旅行を併せて行った場合、期間の比などによって按分し、業務上必要と認められない旅行に係る部分の金額は給与として扱われます(前掲 No.5388)。
したがって、海外出張で残すべき記録は日程表です。1日単位で、移動、商談や視察、休日、私的な滞在を区別して書き、申請時の予定と帰着後の実績の両方を残します。日程表とアポイントの記録は、後から作れない種類の記録です。
規程には、私事を兼ねた渡航を認めるかどうか、認める場合は按分の考え方と、本人負担にする範囲を書きます。実際の按分の方法は渡航の内容によって変わるため、社内で決めた方式で問題がないかは顧問税理士か所轄の税務署に確認してください(要確認)。
消費税の扱いは国内と逆になる
ここは取り違えると毎月の仕訳がずれます。国内出張のために支給した出張旅費・宿泊費・日当のうち、その旅行について通常必要と認められる部分の金額は課税仕入れになります。一方、海外への出張または転勤のために支給した出張旅費・宿泊費・日当等は、原則として課税仕入れになりません(国税庁 タックスアンサー No.6459「出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6459.htm )。
同じ勘定科目で処理していても税区分が違うので、精算の様式には国内と海外を分ける欄を1つ置き、申請の時点で区分が決まる形にします。仕訳そのものの組み方は旅費交通費の仕訳の記事に、国内の旅費で帳簿の保存だけで仕入税額控除が認められる取扱いは出張のガソリン代の記事で扱っています。現地で受け取った領収書に含まれる外国の税をどう扱うかは、渡航先の制度によって変わるため、この記事では扱いません(要確認)。
規程に書き足す項目
国内の規程に対して、海外の分として足りないのは次の項目です。
| 項目 | 決めること | 決めないと起きること |
|---|---|---|
| 海外出張の定義 | どこからを海外出張として扱うか、日帰りの近距離をどちらに入れるか | 同じ渡航に国内と海外の規程が混ざる |
| 地域区分 | 渡航先をいくつの区分に分け、区分ごとに支給を変えるか | 物価の違う地域に同じ額を当て、実費が足りない/余る |
| 座席等級 | 飛行機の等級を役職と飛行時間のどちらで決めるか | 手配のたびに個別の判断と交渉が発生する |
| 宿泊費 | 実費に上限を置くのか、地域ごとの定額にするか | 現地の相場を本人が判断し、金額が説明できない |
| 日当の内訳 | 食事・雑費・現地交通費のどこまでを日当に含めるか | 日当と実費精算の二重払いになる |
| 支度金 | 支給するか、するなら何を対象にするか | 渡航ごとに例外の申請が出る |
| 外貨の換算 | どの相場を、いつの日付で、誰が調べて使うか | 同じ出張で人により円換算額が変わる |
| 海外旅行保険 | 誰が付保し、費用を誰が負担し、どこまで補償するか | 事故のときに会社と本人の双方が動けない |
| 移動日と休日 | 時差や長時間移動を労働時間・代休としてどう扱うか | 労務の側の扱いが人によって変わる |
外貨の換算は、方法を一つ決めて規程に書くことが先です。どの相場(電信売相場、電信買相場、仲値など)を税務上使えるかは、一次情報で確認できていないため、この記事では扱いません。社内で使う相場と入手先を決めたうえで、税務上の取扱いを顧問税理士に確認してください(要確認)。
よくある間違い
- 国内の規程の金額だけを上げて済ませる。金額は結果で、先に決まるのは対象と区分です。定義と地域区分がないまま額を上げると、例外の申請が増えます。
- 観光を兼ねた渡航の日程を残さない。按分は日程で説明する話なので、記録がなければ主張ができません。
- 海外分を国内と同じ税区分で処理する。消費税の扱いが逆になるため、区分を申請の時点で分けます。
- 日当に含めた費目を実費でも精算できる形にする。現地交通費を見積もりにくい海外ほど起きやすくなります。
- 外貨の換算を本人任せにする。相場の出どころと日付を決めていないと、同じ渡航で違う金額が並びます。
- 保険の手配を本人に任せる。誰が付保するかを規程に書いていない会社では、手配漏れが起きても気づけません。
まとめ
- 海外渡航費は、業務の遂行上必要であり、かつ通常必要と認められる部分に限って損金になります。判定は目的・渡航先・経路・期間で行われるため、申請書と日程表にその4点を残します。
- 私事を兼ねた渡航は期間の比などで按分し、業務上必要でない部分は給与になります。按分の考え方を規程に書き、実際の方式は専門家に確認してください。
- 消費税は国内と逆で、海外出張のために支給した旅費・宿泊費・日当等は原則として課税仕入れになりません。精算の様式に国内と海外を分ける欄を置きます。
まず自社で直近に行った海外出張を1件取り出し、目的・渡航先・経路・日程の4点が書類から読み取れるかを確かめてください。読み取れない項目が、規程と様式に足すものです。