役員の出張日当はどこまで認められるか

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役員の日当に法令上の定額の上限はありません。所得税の非課税判定に法人税の役員給与の判定が重なる形を国税庁の一次情報で整理し、規程と記録の残し方までまとめます。

役員に出張日当を払うこと自体は止められていませんが、使用人に払うときより関門が1つ多くなります。日当が「旅費」の範囲に収まっていれば所得税は非課税で、その範囲の判定は役員でも使用人でも同じ物差しです。違うのは、範囲を超えて給与と見られた部分の扱いが、役員では法人税の側にも効く点です。そして法令に「役員の日当は1日いくらまで」という定額の上限はありません。この記事は、中小企業の経理・総務と経営者の方が、金額を決めてそれを説明できる形に残すまでの順番を扱います。

役員の日当には関門が2つある

役員や使用人に支給する手当は原則として給与所得になりますが、転勤や出張などのための旅費のうち通常必要と認められるものは非課税とされています(国税庁 タックスアンサー No.2508「給与所得となるもの」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2508.htm )。役員の場合、ここに法人税の判定が重なります。

関門何を見るか外れたときに起きること
所得税その旅行に通常必要と認められる範囲に収まっているか超えた部分は給与として課税され、源泉徴収の対象になる
法人税役員給与として損金の額に算入されるか損金に算入されない部分が出ると、会社の所得が増える

使用人の日当なら、仮に範囲を超えて給与と見られても、その部分は給与として会社の費用の側に残ります。役員ではここが同じになりません。役員の単価は、使用人の単価を決めるときより慎重に決める必要がある理由はこれです。

所得税の判定は使用人と同じ物差し

「通常必要」の判定は、国税庁の所得税基本通達9-3(非課税とされる旅費の範囲)によります。通達は、旅行の目的、目的地、行路や期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容や地位などから判定するとしたうえで、判定に当たって次の2つを勘案するとしています。

  1. 支給額が、支給をする者の役員と使用人のすべてを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものかどうか
  2. 支給額が、同業種・同規模の他の事業者が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるかどうか

出典(国税庁 所得税基本通達 法第9条《非課税所得》関係。9-3 はこのページにあります): https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/02/02.htm

1つ目が役員にそのまま効きます。役職区分ごとに差を付けること自体は否定されていません。論点は、役員の単価だけが社内の並びから外れていないかです。外れていると、この基準で説明する相手が社内にいなくなります。日数の数え方や単価そのものの決め方は出張日当の計算方法の記事にあります。

法人税の側は役員だけに重なる

法人が役員に対して支給する給与のうち、定期同額給与・事前確定届出給与・一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものの額は損金の額に算入されません。これらのいずれかに該当するものであっても、不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入されません(国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm )。

日当が旅費の範囲に収まっている限り、それは旅費であって役員給与ではありません。効いてくるのは、範囲を超えた部分が給与と見られたときに、その部分が上の枠のどこに入るかです。日当は毎月同じ額が確定して払われるものではないため、定期同額給与や事前確定届出給与の形には収まりにくいという性質があります。ただし、個別の支給がどの枠に当たるか、どの範囲が損金不算入になるかは事実関係で変わります。自社の処理を決める前に顧問税理士に確認してください(要確認)。

実務の結論は単純です。範囲を超えさせないことが、役員の日当では使用人の日当より重く効きます。

規程は全役員・全使用人に及ぶ形にする

9-3 の1つ目の基準は、規程の形にそのまま跳ね返ります。

規程の形社内のバランスを説明できるか
全役員・全使用人を対象にし、役職区分ごとの単価を1つの別表で定める別表1枚で示せる
役員だけを対象にした規程、または役員だけに日当の条文がある比べる相手が社内にいない
規程はあるが、実際の支給額が別表と違う規程があること自体が説明にならない

章立てと別表の作り方は出張旅費規程の作り方の記事にあります。役員を含めるときに足すのは、次の3つです。

  • 役員を対象者の条文に明記する(「役員及び使用人に適用する」の形にする)
  • 役員の区分を使用人と同じ別表に並べて置く(役員用の別表に分けない)
  • 代表者が自分の分を申請して自分で承認する形にならないよう、承認の経路を条文に書く

決めた理由を記録に残す

9-3 の2つ目の基準は社外との比較です。これは出張のたびに判定するものではなく、単価を決めたときの資料で説明します。決めた時点で次を残してください。

残すもの何の説明になるか
比較した資料と、参照した日付社外との比較(9-3 の2つ目)
役職区分ごとの単価を並べた別表と、決議の日社内のバランス(9-3 の1つ目)
改定の履歴(前の単価と、変えた理由)単価が動いた理由
出張1件ごとの申請と精算の記録実際にその旅行があったこと

4つ目が抜けると、規程と別表だけが残ります。日当は実際の出張に対する支給なので、出張があったことの記録が土台です。申請と精算の欄の作り方は出張申請書の記事と旅費精算書の書き方の記事にあります。

要確認: この記事の法令・通達に関する記述は、上に挙げた国税庁のページで確認したものですが、通達の文言は要約しています。自社の金額を決める前に、各ページで原文と最新の内容を確かめ、役員給与の判定については顧問税理士にご相談ください。

よくある間違い

  • 役員だけの日当規程を作る。 9-3 の1つ目の基準は役員と使用人のすべてを通じたバランスを見るため、比べる相手が社内にいない形になります。
  • 法令に上限額があると思って探す。 定額の上限は定められていません。判定は上の2つの基準で行われるので、「上限内だから大丈夫」という説明は成り立ちません。
  • 役員の分を所得税だけで考える。 範囲を超えた部分は、役員では法人税の側にも効きます(前掲 No.5211)。
  • 別表を作って、運用を合わせない。 別表と実際の支給額がずれていると、規程があることが説明になりません。
  • 代表者が自分の出張を自分で承認する。 記録は残りますが、ほかの人が確かめた形にはなりません。

まとめ

  • 役員に日当を払うことは止められていませんが、所得税の非課税判定(所得税基本通達9-3)に、法人税の役員給与の判定(国税庁 No.5211)が重なります。
  • 法令に定額の上限はありません。効くのは、役員と使用人のすべてを通じたバランスと、同業種・同規模の他の事業者との比較の2つです。
  • だから規程は全役員・全使用人を対象にし、役員の区分も同じ別表に並べておきます。決めた理由と、出張があったことの記録が、単価の説明を支えます。

まず、自社の出張旅費規程の対象者の条文を開いて、役員が明記されているか、そして役員の単価が使用人と同じ別表に並んでいるかを確かめてください。別表が役員用と使用人用に分かれているなら、1つにまとめるところが最初の一歩です。