出張旅費規程の作り方と決める7項目

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出張旅費規程に法定の様式はありません。日当・宿泊費・交通費など何をどの順に決めるかを表で整理し、決めたことを条文と別表に落とす形、つまずきやすい点までまとめます。

出張旅費規程は、社員が出張したときに会社が何をいくら払うかを、あらかじめ決めておく社内規程です。様式が法律で定められているわけではないため、「結局どこまで書けば規程として使えるのか」で手が止まりがちです。この記事では、規程に載せる項目を決める順番に並べ、一覧の表にし、決めたことを条文と別表に落とす形と、運用で実際につまずく点まで扱います。想定しているのは、はじめて規程を作る、あるいは何年も見直していない中小企業の経理・総務の方です。

出張旅費規程は何のためにあるか

規程がなくても出張費の精算はできます。領収書を集めて実費を払えばよいからです。それでも規程を作るのは、次の3つを社内で固定するためです。

  • 判断を毎回しないで済むようにする。 「今回の宿は高すぎないか」「この距離で日当は出るのか」を、出張のたびに上長と経理が相談していると、担当者が替わるたびに基準が動きます。
  • 人によって扱いが変わらないようにする。 同じ条件の出張なら同じ額になる、という状態を作れるのは規程だけです。
  • 税務上の説明の土台にする。 会社が社員に支給する旅費のうち、その旅行に通常必要と認められる範囲のものは、所得税法第9条第1項第4号により給与として課税されない扱いになっています。「通常必要」かどうかの判定の考え方は、国税庁の所得税基本通達9-3(非課税とされる旅費の範囲)に示されています。規程は、その判断の根拠を社内に残すためのものでもあります。

出典(国税庁・所得税基本通達の目次。法第9条《非課税所得》関係に9-3があります): https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/01.htm

決めることを順に

上から順に決めると、後ろの項目が自然に埋まります。

1. 何を出張とするか。 片道の距離、移動にかかる時間、宿泊の有無のいずれかで線を引きます。「本社から片道◯km を超える移動」「日帰りでも◯時間以上」のように、後から誰が読んでも同じ結論になる書き方にします。ここが曖昧だと、以降の金額をどれだけ精密に決めても運用が揺れます。

2. 誰に適用するか。 正社員だけか、契約社員・パートも含むか、役員はどうするか。役員だけを極端に手厚くすると、後述する「社内のバランス」の点で説明が難しくなります。

3. 交通費。 利用してよい交通手段と等級(新幹線の普通車・グリーン車、航空機の座席、タクシーを使ってよい場面)を決めます。実費精算が基本ですが、「どこまでを認めるか」を決めておかないと結局その場の判断になります。

4. 宿泊費。 実費の上限を決める方式か、定額を支給する方式かを先に選びます。上限方式は実態に合いますが領収書の確認が要ります。定額方式は事務が軽い一方、地域差や繁忙期の価格差を吸収できません。地域で区分を分ける(都市部とそれ以外など)のが折衷案です。

5. 日当。 出張中の食事代や雑費に充てる定額の支給です。実費精算をしない代わりに一定額を渡す性格のものなので、金額の根拠を規程の外に持っておく必要があります(次の節)。日帰りと宿泊で分けるのが一般的です。

6. 例外の扱い。 海外出張、1週間を超える長期出張、研修や社員旅行との線引き、出張が中止になったときのキャンセル料の負担。ここを書かないと、例外が起きるたびに規程の外で判断することになります。

7. 申請と精算の手続。 事前申請の要否、仮払いの可否、精算の提出期限、必要な証憑、承認者。規程が守られるかどうかは、実はこの節の書き方で決まります。

規程に書く項目の一覧

項目決めることよくある決め方
目的・適用範囲誰に適用するか全社員。役員は別表で区分
出張の定義日帰り/宿泊、距離・時間の線片道の距離または所要時間で定義
区分役職ごとの支給区分役員・管理職・一般の3区分
交通費手段と等級、実費か定額か実費。等級は区分ごとに指定
宿泊費上限方式か定額方式か上限方式+地域区分
日当日帰りと宿泊で分けるか分ける。区分ごとに定額
海外出張別表にするか別表。地域ごとに設定
手続申請・仮払い・精算期限・証憑事前申請、精算は帰着後◯日以内
改定誰がいつ見直すか年1回、取締役会の決議で改定

金額そのものは本文に埋め込まず、別表に切り出すことをおすすめします。改定のたびに規程本体を書き換えずに済み、いつ・どの版が適用されていたかも追いやすくなります。

日当や宿泊費の金額はどう決めるか

法令に「日当は一律いくらまで」という金額の定めはありません。 上限額が条文に書かれていると誤解されがちですが、判定は金額そのものではなく、その支給が「その旅行に通常必要とされる費用に充てられる範囲か」で行われます。国税庁の所得税基本通達9-3は、旅行の目的、目的地、行路や期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容や地位などから見て判定するとしたうえで、判定に当たっては、支給額が役員と使用人の全てを通じて適正なバランスの保たれた基準で計算されているか、また同業種・同規模の他の事業者が通常支給している額に照らして相当か、を勘案するとしています。

つまり、実務上の根拠になるのは次の2つです。

  1. 社内のバランス。 役職区分ごとの差が説明できる幅に収まっていること。役員だけが突出している規程は、この点で説明が難しくなります。
  2. 社外との比較。 同じ業種・同じくらいの規模の会社と比べて相当といえること。

規程を作るとき、あるいは改定するときは、「なぜこの額にしたか」を残しておいてください。比較した資料、決議した日、改定前の額。これがないと、数年後に説明を求められた時点で誰も理由を思い出せません。金額の妥当性そのものについては、顧問税理士に確認することをおすすめします。

なお、消費税の取り扱いは所得税とは別の論点です。従業員に支給する出張旅費・宿泊費・日当の仕入税額控除の要件については、国税庁が質疑応答事例を公開しています。自社の処理を決める前にこちらも確認してください。

出典(国税庁・質疑応答事例「出張旅費、宿泊費、日当等に関係した仕入税額控除の適用方法」): https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/18/08.htm

決めたことを条文に落とす

規程の本体に書くのは、言葉の定義・決める人・出す期限の3つです。金額と様式は本体に入れず、別表と別紙に出します。この形にしておくと、改定のたびに差し替えるのは別表だけで済みます。

置き場入れるものそこに置く理由
規程の本体出張の定義、対象者、区分、支給する費目、申請と精算の手続、決裁者めったに変わらない。変えるときは改定の手続を通す
別表日当・宿泊費の額、交通手段の等級、地域区分改定する前提のもの。本体を触らずに差し替える
別紙の様式申請書・報告書・精算書の書式運用しながら見直す。規程に綴じ込むと変更しにくくなる

条文の書き方は、次の3つの型に収まります。

定義は「〜をいう」で閉じる。 「原則として」「など」を入れると、例外の判断がその場に戻ってきます。距離や時間で線を引くなら、どこを起点に測るのかまで書いてください。

金額は「別表第1のとおりとする」として別表に委ねる。 額を本体に書き込むと、金額を直すたびに規程そのものの改定が必要になります。

例外は「別に定める」で終わらせない。 そう書いて終えると、例外が起きたときに誰も決められません。「〜の場合は、管理部門長の承認を得て支給する」のように、決める人を条文に置きます。

申請書・報告書・精算書は、本体には名前と提出先・提出期限だけを書き、書式は別紙にします。それぞれの様式に何を載せるかは、出張申請書の書き方、出張報告書の書き方、旅費精算書の書き方に分けて書きました。日当の日数の数え方は日当の計算にあります。

最後に附則を置き、施行日と、旧版をいつからいつまで適用していたかを残す形を決めます。過去の精算が当時の規程に合っていたかを確かめられるのは、施行日が書かれているときだけです。

よくある間違い

出張の定義を書かずに金額表だけ作る。 いちばん多い形です。金額は決まっているのに「これは出張か」で毎回止まります。

実費精算と日当を二重に払う。 日当は食事代や雑費に充てる定額の支給です。同じ費目を領収書でも精算できる規程になっていると、実質的に二重払いになります。日当の対象範囲を本文に明記してください。

規程を作って社員に渡していない。 社内規程として整えても、周知していなければ運用は変わりません。作成と同時に、申請の様式と提出先までを含めて案内してください。

改定の履歴を残していない。 「いつから今の額なのか」が分からないと、過去の精算が当時の規程に合っていたかを確かめられません。改定日と新旧の額を残してください。

節税を目的に金額を決める。 日当を高く設定すれば所得税の対象にならない支出を増やせる、という発想で金額を決めると、前述の「通常必要」の範囲を外れる可能性があります。金額は実態から決めてください。

まとめ

  • 出張旅費規程に法定の様式はありません。出張の定義 → 対象者 → 交通費 → 宿泊費 → 日当 → 例外 → 手続の順に決めると、抜けが出にくくなります。
  • 日当や宿泊費に法令上の上限額はなく、社内のバランスと同業他社との比較で相当性が判断されます(所得税基本通達9-3)。決めた理由と改定の履歴を必ず残してください。
  • 本体に置くのは定義・決める人・期限で、金額は別表、様式は別紙に出します。改定のたびに規程本体を触らずに済みます。

まずは自社の直近1年の出張の実績を10件ほど並べ、「今どう払っているか」を書き出すところから始めてください。規程は、その実態に名前を付ける作業です。条文と通達は改正されることがあるため、作成・改定の際は上記の国税庁のページで最新の内容を確認し、金額の妥当性は顧問税理士にご相談ください。