業務委託先の交通費は源泉徴収の対象か
外注先や講師に払う交通費・宿泊費は、原則として源泉徴収する報酬に含まれます。外れるのは会社が交通機関やホテルへ直接払った分だけです。国税庁の資料で線を引きます。
業務委託先の個人に交通費を払うとき、「実費だから源泉徴収は要らない」とはなりません。旅費や宿泊費も原則として源泉徴収の対象となる報酬・料金に含まれ、対象から外れるのは、会社が交通機関やホテルへ直接払い、本人にお金が渡っていない分だけです。この記事は、その線を国税庁の資料で引き、契約と請求書と精算の様式にどう落とすかを整理します。
原則は報酬に含めて源泉徴収する
居住者に対し国内において一定の報酬・料金等を支払う者は、その支払の都度、所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません(所得税法第204条第1項。国税庁 源泉徴収のあらまし(令和8年版)第5 報酬・料金等の源泉徴収事務 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/aramashi2026/pdf/07.pdf )。中小企業がよく当たるのは、原稿料・講演料・デザインの報酬(第1号)と、弁護士・税理士・司法書士・コンサルタント等の報酬(第2号)です。
名目を変えても結論は動きません。所得税基本通達204-2は、これらの報酬・料金の性質を有するものは、たとえ謝礼、研究費、取材費、材料費、車賃、記念品代等の名義で支払われても、それぞれの報酬・料金等として源泉徴収をする必要があるとしています(所得税基本通達 第204条関係 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/36/01.htm )。名義の例に「車賃」が挙がっていることが、交通費の扱いを決めています。
旅費・宿泊費も原則として対象に含まれます。税率は10.21%で、同一人に対し1回に支払われる金額が100万円を超える場合には、その超える部分が20.42%です(国税庁 タックスアンサー No.2795「原稿料や講演料等を支払ったとき」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2795.htm )。交通費を報酬に含める以上、計算のもとになる金額もその分だけ増えます。
対象から外れるのは、本人に渡していない旅費だけ
所得税基本通達204-4は、支払者が、役務を提供する人の旅行・宿泊等の費用を負担する場合の取扱いを定めています。源泉徴収をしなくて差し支えないのは、次の3つをすべて満たすときです(前掲 源泉徴収のあらまし 第5)。
| 要件 | 中身 |
|---|---|
| 本人に交付されない | その費用として支出する金銭等が、役務を提供する人に対して交付されるものではないこと |
| 直接支払われる | 支払者から交通機関、ホテル、旅館等に直接支払われること |
| 通常必要な範囲内 | その金額が、その費用として通常必要であると認められる範囲内のものであること |
この取扱いが及ぶのは、原稿料・講演料等(第1号)、弁護士・税理士等の報酬(第2号)、職業野球の選手等(第4号)、芸能人等(第5号)で、ホステス等の報酬(第6号)・契約金(第7号)・賞金(第8号)は枠の外です。
本人が立て替えた交通費は、この枠に入らない
委託先が自分で切符を買い、後から会社が精算する形は、1つめと2つめの要件を満たしません。お金は本人に渡り、交通機関へ払ったのは本人です。したがって原則どおり、報酬に含めて源泉徴収することになります。領収書の宛名を会社名にしても、仕訳で立替金の科目を使っても、要件は宛名や科目ではないため結論は変わりません。立替精算の分を対象から外せると正面から示した国税庁の文書は見つけられなかったため、金額の大きいものや継続的に払うものは、所轄の税務署か顧問税理士に確認してください(要確認)。
逆に、会社が手配して直接払う形に変えれば、要件を満たす余地が出ます。切符やホテルを会社名義で手配し、代金を会社から交通機関・ホテルへ払えば、本人に渡るお金が無くなるためです。どちらにするかを発注の時点で決めておけば、源泉徴収の判断は精算まで持ち越しになりません。
消費税は別の問いとして見る
源泉徴収の対象となる金額には、原則として消費税及び地方消費税の額を含めます。ただし、請求書等で報酬・料金等の額と消費税額等とが明確に区分されている場合には、報酬・料金等の額のみを対象として差し支えありません(平成元年直法6-1。前掲 源泉徴収のあらまし 第5)。この取扱いはインボイス制度の開始後も変わりません(前掲 No.2795)。区分の話は消費税額についてのものなので、交通費を別の行に書いても、それだけで対象から外れるわけではありません。
仕入税額控除の側には、別の手当てが要ります。委託先が立替払いした経費について、委託先宛てに交付されたインボイスをそのまま受け取って保存しても、自社宛てに交付されたインボイスとすることはできません。立替払いをした側から立替金精算書等の交付を受け、その課税仕入れが自社のものであることが明らかにされていれば、インボイスと精算書の保存で要件を満たします(消費税法基本通達11-6-2。国税庁 インボイス制度に関するQ&A 問94「立替金」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/94.pdf )。立替払いをした委託先が適格請求書発行事業者でなくても、経費の支払先が適格請求書発行事業者であれば控除できます。
従業員等に支給する出張旅費のように帳簿の保存だけで控除できる枠は、社外の委託先への支払いには当てはまりません(出張旅費でインボイスの保存が不要になる範囲)。
登記のための登録免許税・手数料は対象外
弁護士・税理士・司法書士等の報酬(第2号)の支払者が委嘱事項に関連して支払う金銭等であっても、国や地方公共団体に対し登記、申請等をするため本来納付すべきものとされている登録免許税、手数料等に充てるものとして支払われたことが明らかなものは、源泉徴収をする必要がありません(所得税基本通達204-11。前掲 源泉徴収のあらまし 第5)。登記費用と報酬を1枚の請求書で受け取っているときは、ここを分けて読みます。
納付の期限も号で変わります。源泉徴収した税は支払った月の翌月10日までに納付しますが、納期の特例を使えるのは第2号の報酬・料金に限られ、その分の期限は7月10日と翌年1月20日です(前掲 源泉徴収のあらまし 第5)。講演料や原稿料はこの特例に乗りません。
発注と精算の様式に決めておく4つ
- 旅費の払い方を先に決める — 「本人立替」か「会社手配の直接払い」か。発注書か契約書に書く
- 請求書の形を決めてもらう — 報酬額と消費税額等を区分し、交通費の内訳も分かる形にする
- 源泉徴収の対象額を様式で決める — 本人立替の交通費は入れ、会社手配の直接払いは入れない
- 立替金精算書を集める — 消費税の控除のため、インボイスと精算書の両方を受け取る
自社の役員・従業員の出張の決め方は出張旅費規程の作り方、立替と仮払の仕訳は旅費交通費の仕訳、精算の欄の作り方は旅費精算書の書き方にあります。
よくある間違い
- 実費だから源泉徴収は要らないと判断する。旅費・宿泊費も原則として報酬・料金に含まれます
- 領収書の宛名を会社にすれば外せると考える。要件は宛名ではなく、上の3つです
- 委託先宛てのインボイスだけを保存する。立替金精算書等が無いと自社の課税仕入れだと示せません
- 相手が法人のときも同じように扱う。第204条第1項の対象は居住者に支払うものです(前掲 源泉徴収のあらまし 第5)
まとめ
- 委託先の個人に払う交通費・宿泊費は、原則として源泉徴収の対象となる報酬・料金に含まれます
- 外れるのは、本人に交付されず、会社から交通機関・ホテル等へ直接支払われ、通常必要と認められる範囲内の分だけです
- 消費税の仕入税額控除は別の問いで、委託先が立替払いした分はインボイスと立替金精算書の両方が要ります
直近の外注先への支払いを1件開いて、交通機関に払ったのは会社か本人かを確かめてください。源泉徴収の対象額が変わる分かれ目はそこです。