転勤・赴任の旅費を規程でどう決めるか
転勤の旅費は出張とは別の支給事由です。会社が負担するものを移動・運送・赴任先の3つに分け、非課税の線の引き方、出張旅費規程に章を足す形、精算と年末調整への渡し方まで表で整理します。
転勤に伴って会社が払う旅費は、出張の旅費とは別の支給事由です。所得税では「転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの」が非課税とされていて(国税庁 タックスアンサー No.2508「給与所得となるもの」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2508.htm )、その「通常必要」の線を実際に引くのは自社の規程です。この記事では、負担するものを3つに分けて規程の条文に落とす順番と、精算・年末調整の側で先に決めておくことを扱います。想定しているのは、はじめて社員の転勤を出す、あるいは転勤の規定を何年も見直していない中小企業の経理・総務の方です。
転勤の旅費は出張の旅費と別の支給事由
出張は、戻ってくることが前提の移動です。だから日当・宿泊費・交通費を単価と日数で決められます。転勤(赴任)は生活の場そのものを移すので、起きる支出の種類が違います。
| 出張 | 転勤・赴任 | |
|---|---|---|
| 回数 | 繰り返し起きる | 原則1人1回 |
| 主な支出 | 交通費・宿泊費・日当 | 交通費・家財の運送・赴任先の立ち上がり |
| 関わる人 | 本人 | 本人と家族 |
| 決め方 | 単価×日数で決めやすい | 実費の幅が大きく、上限で決めることになる |
税の側では、この2つが同じ枠に並びます。所得税で非課税とされるのは「転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの」です(前掲 No.2508)。消費税でも、国内の出張または転勤のために役員または使用人に支給した出張旅費・宿泊費・日当等は、その旅行について通常必要であると認められる部分の金額が課税仕入れになります(国税庁 タックスアンサー No.6459「出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6459.htm )。
同じページには、海外への出張または転勤のために支給した出張旅費・宿泊費・日当等は原則として課税仕入れにならないとも書かれています(前掲 No.6459)。海外赴任は税区分が逆になるので、国内の条文に数行足して済ませないでください(海外出張の旅費規程の記事)。
負担するものを3つに分ける
転勤の費用を1つの袋に入れると、どこまで出すのかが決まりません。発生する場面で3つに分けると、規程に書く単位がそのまま決まります。
| 束 | 中身 | 規程で決めること |
|---|---|---|
| 移動 | 本人と家族の交通費、移動日の宿泊費 | 使える等級(新幹線の指定席まで、など)、同行する家族の範囲 |
| 運送 | 家財の荷造りと運送、一時保管 | 実費精算か上限つきか、見積りを何社取るか、対象外の物(自動車・ピアノ・ペットなど) |
| 赴任先 | 住居を探すための旅行、入居までの滞在 | 下見の回数と日数、入居までの宿泊の上限日数 |
この3つは実費が見える支出です。一方で、支度金・赴任手当・単身赴任手当のように、実費と結びつけずに定額で渡すものがあります。定額で渡すものは、実費との結びつきが切れるため、3つの束とは別の条文に置いて、名前と金額と支給の条件を分けて書いてください。
定額で渡したものが給与として課税されるかどうかの線は、解説記事では「課税」と書かれていることが多いものの、今回は国税庁のページで原文を確かめられませんでした。自社の支給の形に当てはめた判断は、顧問税理士か所轄の税務署に確認してください(要確認)。
「通常必要」を決めるのは自社の規程
法令が置いているのは「通常必要と認められるもの」という言葉だけで、金額の線はありません。つまり、何が通常必要かを説明する材料は自社の規程と記録しかない、ということです。
説明しやすい形は決まっています。実費精算を原則にし、上限を別表に書くことです。領収書と見積りが残り、上限を超えた分は例外として分かれるので、どこまでが通常必要の範囲かを後から言えます。逆に、全部を定額で渡すと、実費がいくらだったかを会社が持たないため、範囲の説明ができなくなります。
なお、非課税とされる旅費の範囲の判定の目安は所得税基本通達9-3に置かれていますが、今回はこの通達の原文のページを読み取れなかったため、勘案する要素は本文に書いていません。規程の金額を決める前に原文を確認してください(要確認)。
出張旅費規程に章を足す形でよい
転勤旅費規程を別に起こすか、出張旅費規程に章を足すかで迷ったら、章を足す形で始めてください。目的・適用範囲・申請と精算の手続き・時効・例外の決め方は、出張と転勤で同じものを使えます。違うのは支給する費目と金額だけです。
置き分けはこうなります。
| 置き場 | 書くもの |
|---|---|
| 本体の条文 | 誰に、どの事由で、何を支給するか。上限を超えたときに誰が決めるか |
| 別表 | 等級ごとの交通費、宿泊の上限、支度金の額 |
| 別紙 | 申請書・精算書の様式 |
条文の書き方そのもの、たとえば定義を「〜をいう」で閉じる形や、金額を本体に書かずに別表へ逃がす形は出張旅費規程の記事に型としてまとめています。日当を単価と日数で決める手順は日当の計算の記事が同じ考え方で使えます。
精算と年末調整への渡し方を先に決める
転勤の旅費は金額が大きく、支給が複数回に分かれます。払い方を決める前に、記録の側の道を作っておいてください。
- 精算書に「出張か転勤か」の欄を置く。 同じ旅費交通費に混ざると、年度末に転勤分だけを取り出せません。欄の決め方は旅費精算書の記事にまとめています。
- 実費精算と定額支給を別の行にする。 定額で渡した分は、後から給与として処理する可能性が残ります。はじめから行が分かれていれば、探し直す手間が要りません。仕訳の形は旅費交通費の仕訳の記事にあります。
- 給与として処理する分の締めを合わせる。 給与の計算期間と精算の締めがずれていると、処理が翌月に落ちます。どちらの締めに合わせるかを先に決めてください。具体的な源泉徴収の時期は自社の給与の締めに依存するため、顧問税理士に確認してください(要確認)。
従業員の側で引ける分がある
会社が出さなかった分について、従業員が確定申告で引ける制度があります。給与所得者の特定支出控除です。対象になる特定支出は7つあり、そのうち「転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出(転居費)」と「単身赴任などの場合で、その者の勤務地または居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出(帰宅旅費)」が転勤に関わります(国税庁 タックスアンサー No.1415「給与所得者の特定支出控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1415.htm )。
同じページによると、その年の特定支出の額の合計額が給与所得控除額の2分の1相当額を超えるときに、確定申告でその超える部分を差し引けます。また7つの特定支出は、いずれも職務の遂行に直接必要なものであることなどについて給与の支払者(またはキャリアコンサルタント)の証明がされたものに限られます(うち勤務必要経費の上限は65万円。前掲 No.1415)。
総務にとっての意味は1つです。証明書の依頼が来るということ。転勤を出したら、誰が何を証明するのかと、その様式を先に決めておいてください。依頼が来てから探すと、確定申告の期限に間に合いません。
よくある間違い
- 全部を支度金で渡す。 金額の説明が要らなくなるので楽に見えますが、実費の記録が会社に残らないため、通常必要の範囲を説明する材料が無くなります。
- 出張の日当をそのまま赴任の日当に使う。 出張の日当は戻る前提の滞在に対する支給です。赴任の移動日に同じ単価を当てる理由は無いので、別表で分けてください。
- 上限を書かない。 運送費と下見の費用は、書かないと際限がありません。上限と、超えたときに誰が決めるかを条文に置いてください。
- 海外赴任を国内の条文で扱う。 消費税の扱いが逆になるため、同じ条文のままでは処理を間違えます。
まとめ
- 転勤の旅費は出張とは別の支給事由ですが、非課税の枠は「通常必要と認められるもの」という同じ言葉で決まります。線を引くのは自社の規程です。
- 負担するものを移動・運送・赴任先の3つに分け、実費精算を原則にして上限を別表に書くと、範囲を後から説明できます。定額で渡すものは別の条文に分けます。
- 精算書に出張と転勤を分ける欄を置き、定額支給の行も分けておくと、課税の処理を変えるときに探し直す必要がありません。
まず、直近の転勤(または次に出す予定の転勤)で会社が払うものを紙に書き出し、移動・運送・赴任先・定額の4つに分けてください。どれにも入らないものが出たら、それが規程に書く条文が足りていない箇所です。