旅費精算の自動化はどこまで任せられるか

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旅費精算の自動化で減らしたいのは入力ではなく確認です。工程ごとに任せられる範囲、電子帳簿保存法で決まる証憑の扱い、導入前に規程で決めておくことを整理します。

「旅費精算を自動化したい」と考えるとき、実際に減らしたいのは入力の手間ではなく、差し戻しと確認のやり取りであることがほとんどです。領収書の読み取りを機械に任せても、申請の内容が規程に合っているかを人が一件ずつ見ている限り、締めの作業は短くなりません。この記事では、旅費精算を工程に分けて、機械に任せられるところ、法令の要件で形が決まるところ、自社で先に決めておかないと自動化できないところを順に整理します。想定しているのは、出張の精算を回している中小企業の経理・総務・経営者の方です。

旅費精算は6つの工程に分かれる

自動化の話がかみ合わないのは、指している工程が人によって違うからです。旅費精算は、実務では次の順に進みます。

  1. 申請。 出張の予定を出し、承認を受ける。
  2. 実行。 移動し、交通費・宿泊費が発生する。
  3. 証憑を集める。 領収書、カードや交通系ICの明細、経路の記録。
  4. 申請書を作る。 金額を入れ、規程の日当を当てはめる。
  5. 確認する。 規程に合っているか、証憑がそろっているかを見る。
  6. 支払う・記帳する。 振込、仕訳、保存。

多くの製品が得意にしているのは3と4、つまり集めることと作ることです。一方、月末に時間を取られているのは5であることが多く、ここは製品の性能ではなく規程の書き方で決まります。どの工程に時間がかかっているかを数えないまま製品を選ぶと、いちばん長い工程がそのまま残ります。

工程ごとに、任せられるところと人が残るところ

工程機械に任せられること人が残るところ
申請入力項目の定型化、承認経路の自動の割り当て出張そのものの要否の判断
実行移動の記録、カード・交通系ICの明細の取り込み私用と業務の切り分け
証憑集め領収書の読み取り、電子データの保存、検索項目の付与読み取れなかった券面の確認
申請書作成経路と運賃の計算、規程にもとづく日当の当てはめ例外の申告(早朝・深夜・同行者ありなど)
確認規程との突き合わせ、重複や上限超過の検出検出された例外を認めるかの判断
支払・記帳仕訳の生成、振込データの作成、要件を満たした保管月をまたぐ出張の計上月の確認

右の列が、仕組みを入れても残る仕事です。逆にいえば、右の列をどれだけ小さくできるかが、導入してから効いてくる部分になります。そして右の列は、製品を替えても小さくなりません。迷う場面を規程であらかじめつぶしておくことでしか小さくなりません。

証憑の扱いは法令の要件で形が決まる

自動化の設計でいちばん制約になるのは、集めた証憑をどう保存するかです。ここは自社の都合では決められません。

メールやウェブサイトで受け取った請求書・領収書などの電子データは、電子取引の取引情報として、電子データのまま保存することが必要です。保存にあたっては、改ざん防止のための措置をとること、日付・金額・取引先で検索できること、ディスプレイやプリンタ等を備え付けることが求められます(国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07denshi/index.htm および適用要件【基本的事項】 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07denshi/02.htm )。

紙で受け取った領収書については、一定の要件を満たせば、書面の保存に代えてスキャン文書で保存することが認められています(国税庁「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】」 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07scan/index.htm )。制度全体の入口は、国税庁の電子帳簿等保存制度特設サイト https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/index.htm にまとまっています。要件の細目や適用の時期は改正で動くため、導入の前に原文で確認してください。

したがって、仕組みを選ぶときに先に見るべきは、読み取りの精度よりも、受け取り方(紙か電子か)ごとに保存の経路が用意されているか、検索に必要な項目が自動で付くか、です。ここが欠けていると、入力は自動でも保存だけが手作業で残ります。

領収書を集めなくてよい範囲を先に確かめる

集める量そのものを減らせる場合もあります。従業員等に支給する出張旅費・宿泊費・日当等のうち、その旅行について通常必要であると認められる部分については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます(出張旅費等特例。国税庁の質疑応答事例 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/18/08.htm )。また、少額の公共交通機関による旅客の運送についても、適格請求書の交付義務が免除され、帳簿のみの保存が認められる取扱いがあります(金額の基準を含む詳細は、国税庁のインボイス制度に関するQ&A https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/105.pdf )。

この範囲に当たる支出では、そろえるべきものは領収書ではなく帳簿の記載事項です。何を書かせるかが決まれば、申請の画面もそこから逆算できます。製品を見る前に、自社の精算のうちどれだけがこの範囲に入るかを数えておくと、比べる基準がはっきりします。

自動化の前に、規程で決めておくこと

機械は「規程に合っているか」しか判定できません。規程に書かれていない項目は、すべて人の判断として工程5に戻ってきます。最低限、次の5つは先に決めておきます。

  • 日当の単価と、日数の数え方(日をまたぐときの境目の時刻、端数の扱い)
  • 宿泊費の上限と、上限を超えたときにどうするか
  • 経路の基準(最も経済的な経路か、所要時間の短い経路か)
  • 精算の期限と、期限を過ぎた申請の扱い
  • 例外を認められる人と、認めた記録の残し方

決め方そのものは出張旅費規程の記事に、日数の数え方は日当の計算の記事に分けて書いています。自動化の効果が出ない会社は、製品ではなくこの5行が空欄であることが多いです。

よくある間違い

  • 読み取りの精度だけで選ぶ。 読み取りは工程3の一部です。締めが長い原因が工程5にあるなら、精度を上げても日数は変わりません。
  • 紙と電子で保存の経路を分けていない。 受け取り方によって求められる保存の形が違います。片方しか設計していないと、もう片方が手作業で残ります。
  • 規程を変えずに仕組みだけ入れる。 例外の判断が減らないため、承認の画面が増えるだけになります。
  • 全部を一度に置き換える。 どの工程が効いたのか分からなくなります。工程を1つずつ替え、そのつど締めにかかる日数を測ります。
  • 測る指標を決めていない。 「楽になった」では判断できません。差し戻しの件数、締めまでの日数、1件あたりの確認時間を、導入の前に数えておきます。

まとめ

  1. 自動化は工程ごとに分けて考える。効くのは入力ではなく確認の工程であることが多い。
  2. 証憑の保存は法令の要件で形が決まる。紙と電子の両方の経路を先に設計する。
  3. 確認を減らすのは規程。日当・上限・経路・期限・例外の5点を先に決める。

まずは直近1か月の精算のうち、差し戻しが起きた件数とその理由を数えてみてください。理由の上位3つが、自社で自動化して効く工程です。

要確認: この記事の法令・税務に関する記述は、国税庁が公開している情報をもとにしていますが、作成時点で原文のページを直接確認できていません。自社の保存方法や精算の運用を決める前に、上記の各ページで原文と最新の内容を必ず確認し、判断に迷う点は顧問税理士にご相談ください。