出張の前泊・後泊はどこまで経費にできるか
前泊・後泊の宿泊費と日当を会社が出せるかは、社内の旅費規程と、税務で「通常必要であると認められる範囲」かの二段で決まります。認める条件の書き方と私用の延泊との切り分けを整理します。
出張の前日に現地へ入って泊まる、用務が終わった日に泊まって翌日帰る。この宿泊費を会社が出せるかは二段で決まります。社内で払えるかは旅費規程が、税務で給与にならないかは所得税法が決めます。所得税法第9条第1項第四号は、給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をした場合などに「その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの」を非課税としています(e-Gov 法令検索 所得税法 https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033 )。条文は前泊・後泊という区分を持っていません。この記事では、規程に認める条件の書き方と、私用で延ばした分の切り分け方を扱います。想定しているのは、旅費規程を決める側の中小企業の総務・経理の方です。
法令に「前泊」「後泊」という区分は無い
前泊・後泊は実務の言葉で、法令用語ではありません。「前泊は経費になりますか」に、法令の側から答えは出てきません。決まるのは次の二つです。
| 問い | 決めるもの | 決めていないと起きること |
|---|---|---|
| 社内で払えるか | 自社の旅費規程(認める条件、承認の要否) | その場の判断になり、人によって通ったり通らなかったりする |
| 税務で給与にならないか | 所得税法第9条第1項第四号の「通常必要であると認められるもの」の範囲 | 範囲を超えた部分が給与として扱われ、源泉徴収の対象になる |
判定の勘案事項に「宿泊の要否」が入っている
国税庁は、出張旅費等特例の資料で「通常必要であると認められる部分の金額」を所得税基本通達9-3《非課税とされる旅費の範囲》の例により判定するとしています(国税庁「インボイス制度における特例(出張旅費等特例)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0024003-138.pdf )。その9-3は、旅行の目的、目的地、行路、期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位などを勘案して、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内かを判定するとしています(国税庁 所得税基本通達 法第9条《非課税所得》関係 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/02/02.htm )。
前泊・後泊で効くのは、この「宿泊の要否」です。泊まる必要があったと言えるかどうかが、判定する事項のなかに正面から置かれています。裏を返すと、日帰りで用務に間に合う出張で前泊すれば、その宿泊が必要だったとは言いにくくなります。個別の判断は所轄の税務署か税理士に確認してください。
規程に書いただけで、税務の判定が決まるわけではない
同じ資料は「出張旅費等に係る社内規程や基準の有無にかかわらず、また、概算払いによるものか、実費精算によるものかにかかわらず、通常必要であると認められる部分は特例の対象となる」とし、「『通常必要であると認められる部分の金額』を超える部分は使用人等に対する『給与』として、仕入税額控除の対象外となる」としています。
規程に「前泊を認める」と書くことは社内で払う根拠にはなりますが、それで税務の判定を置き換えることはできません。逆に、規程に書いていなくても、通常必要と認められる部分は特例の対象から外れません。消費税の側でも線は同じで、国内出張のために支給した旅費・宿泊費・日当などは、通常必要であると認められる部分の金額が課税仕入れになります(国税庁 No.6459 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6459.htm )。
認める条件は、出発と帰着の時刻で線を引く
「必要な場合は認める」とだけ書いた規程は現場で機能しません。必要かどうかを誰がどう決めるのかが書いていないからです。線は、用務の開始・終了の時刻と、自宅から用務地までの移動時間の組み合わせで引けます。
たとえばある大学の研究費の手引きは、用務日当日の移動では用務開始に間に合わない、用務終了後当日中に自宅に帰着できない等のやむを得ない場合に限って前泊・後泊を認めるとし、目安として、前泊は朝7時以前に出発しなければならない場合、後泊は夜10時以降に帰着となる場合を挙げています。あわせて、妥当性を第三者が類推できる資料の提出を求めています(立命館大学 研究費ガイドブック https://www.ritsumei.ac.jp/research/member/file/research_expenses/guidebook_chapter4.pdf )。
この時刻が自社に当てはまるとは限りませんが、組み立て方は参考になります。決めるのは次の4つです。
- 対象 — 誰の、どの出張で認めるか
- 線 — 何時より前の出発、何時より後の帰着なら認めるか。自社の始業時刻と、主要な出張先への実際の所要時間から決める
- 資料 — 用務の開始・終了の時刻が分かるものを申請に添えさせるか
- 承認 — 事前承認を要るものとするか、事後の申告でよいか
移動を労働時間として扱うかは別の問題で、出張の移動時間は労働時間になるかで扱っています。
私用で延ばした分は、日付で切る
前泊・後泊でもめやすいのは、業務上必要な宿泊と、本人が私用で延ばした分の切り分けです。切る基準は日付です。用務の開始に間に合わせるために要る宿泊と、用務の終了後に帰るために要る宿泊だけを対象にします。規程に書いておくことは3つあります。
- 対象にする宿泊は、用務開始日の前日(前泊)と用務終了日(後泊)に限る
- 私用で延ばした日の宿泊費と日当は支給しない
- 帰着日が私用でずれても、交通費は用務終了日に帰った場合の経路と運賃を上限とする
3つ目を決めていないと、「どうせ帰るのだから運賃は変わらない」として延泊が通り、便の変更で増えた分まで会社が持ちます。
前泊日・後泊日に日当を出すかを決める
宿泊を認めることと、その日に日当を出すことは別の決めごとです。前泊日・後泊日を日当の対象に含めるかを書いていない規程は多く、判断が割れます。決め方は2通りです。
- 宿泊を認めた日は日当の対象に含める(移動と現地での待機が発生しているため)
- 用務に従事した日だけを対象とし、前泊日・後泊日は宿泊費だけを支給する
どちらでもよいので、選んだほうを条文に書きます。日数の数え方そのものは出張日当の計算方法と金額の決め方で扱っています。
申請と精算に残す欄
申請の時点で残すのは、用務の開始・終了の時刻、前泊・後泊が要る理由、添えた資料の名前。精算の時点で残すのは、実際に泊まった日と用務日程とのずれです。
事前申請を必須にする範囲の決め方は出張申請書の書き方と承認フローの決め方に、宿泊費を実費精算にするか定額支給にするかは出張の宿泊費は実費精算か定額支給かにあります。
よくある間違い
- 規程に「前泊を認める」とだけ書き、条件を書かない。判断は申請のたびに上司へ戻ります
- 規程に書いたから税務でも通ると考える。国税庁の資料は、社内規程の有無にかかわらず通常必要と認められる部分かで判定するとしています
- 前泊日・後泊日に日当を出すかを決めないまま運用する
- 私用の延泊と業務上の宿泊を、本人の申告だけで区別する
まとめ
- 法令に前泊・後泊という区分はありません。税務が見るのは「通常必要であると認められるもの」かどうかで、判定の勘案事項に「宿泊の要否」が入っています
- 規程に書くことと、税務で通ることは別です。国税庁の資料は、社内規程の有無にかかわらず判定し、超える部分は給与になるとしています
- 規程に書くのは、対象・時刻の線・添えさせる資料・承認の4つです。前泊日と後泊日に日当を出すかも、あわせて条文に書きます
規程全体に何をどこまで書くかは出張旅費規程の作り方にあります。Tabikan は規程に書いた前泊・後泊の条件を設定として持ち、そこから外れた宿泊の精算だけを人に見せます。