出張の日当に社会保険料はかかるのか
出張旅費は実費弁償なので社会保険の報酬にも労働保険の賃金にも入りません。一次情報が名前を挙げているのは旅費で、日当は実態で判断します。根拠と外す条件を出典付きで整理します。
出張旅費は、事業主が負担すべきものを従業員が立て替えて受け取る実費弁償なので、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の「報酬等」にも、労働保険(労災保険・雇用保険)の「賃金」にも含まれません。ただし、一次情報が例として挙げているのは「出張旅費」であって「日当」という言葉ではありません。日当がこの枠に収まるかは、名称ではなく実費弁償といえる実態があるかで決まります。この記事では、社会保険と労働保険それぞれの根拠、実費弁償といえるかが問われる場面、算定基礎届や年度更新で手を動かすところまでを順に扱います。想定しているのは、給与計算と出張精算の両方を見ている中小企業の経理・総務の方です。
出張旅費が外れる理由は「労働の対償ではない」こと
日本年金機構の事例集は、報酬・賞与の範囲を類型に分けて示しています。そのうちの一つが、事業主が負担すべきものを被保険者が立て替え、その実費弁償を受ける場合で、これは労働の対償とは認められないため「報酬等」に該当しないとされ、例として出張旅費と赴任旅費が挙げられています(日本年金機構「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20121017.files/jireisyu.pdf )。
外れる理由が「旅費だから」ではなく「労働の対償ではないから」である点が重要です。報酬等は健康保険法第3条第5項・第6項、厚生年金保険法第3条第1項第3号・第4号で「労働者が、労働の対償として受けるすべてのもの」と規定されており、判断はここから始まります。
社会保険と労働保険は、根拠が別でも線は同じ
同じ事例集は、社会保険料・労働保険料等の算定基礎となる報酬等・賃金について、健康保険法・厚生年金保険法・労働保険徴収法のいずれでも、名称を問わず労働者が労働の対償として受ける全てのものであり、立て替えの実費弁償はこれに該当しないと整理しています。
| 制度 | 算定基礎の呼び名 | 出張旅費の扱い |
|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金保険 | 報酬等(標準報酬月額のもと) | 実費弁償は該当しない |
| 労災保険・雇用保険 | 賃金総額 | 実費弁償的なものは算入しない |
労働保険の側も結論は同じです。厚生労働省の労働局が出している賃金早見表では、出張旅費・宿泊費・赴任手当等(実費弁償的なもの)が賃金総額に算入しないものとして並び、通勤手当や定期券・回数券は算入するものとして並んでいます(神奈川労働局「労働保険料の算定基礎となる賃金早見表」 https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudou_hoken/hourei_seido/rouho_hayami.html )。
一次情報が名前を挙げているのは「旅費」で、日当ではない
ここが実務で詰まるところです。交通費や宿泊費は実際に支払った額を立て替えているので、実費弁償だと説明しやすい一方、日当は規程で決めた定額を領収書なしで払います。同じ出張旅費規程から出ていても、性格は同じではありません。
事例集は、挙げた例について、名称だけでなく実態に合わせて該当するかどうかを判断するものとする、と但し書きを付けています。したがって「名前が日当だから算定基礎に入らない」とは言えず、「その日当が出張に伴う費用の弁償といえる実態になっているか」で見ることになります。個別の支給が実費弁償に当たるかの最終的な判断は、所轄の年金事務所・労働局か社会保険労務士に確認してください(要確認)。
実費弁償といえるかが問われやすい払い方
次のような払い方は、出張に伴う費用の弁償だという説明が立ちにくくなります。
- 出張の実績にかかわらず、毎月同じ額を固定で払っている
- 出張旅費規程がなく、支給の事由・対象者・額が決まっていない
- 出張の報告や精算がなく、実際に行ったかを会社が確かめていない
- 通勤と変わらない距離・時間の移動に日当を付けている
いずれも、支給額が正しいかどうかの問題ではなく、支給の根拠をたどれるかどうかの問題です。出張旅費規程に支給事由と額を書き、出張ごとに報告と精算を残しておけば、説明は規程と記録で足ります。
通勤手当は逆で、報酬等にも賃金にも入る
同じ「移動のためのお金」でも、通勤手当は事例集で報酬等に該当する例に挙げられ、賃金早見表でも算入するものに並びます。労働の対償として経常的に払われるものだからです。
この線引きが分かりやすく出ているのが、在宅勤務で一時的に出社するときの交通費の扱いです。事例集は、その日の労働契約上の労務の提供地が自宅であれば、業務命令で出社した移動の実費は原則として実費弁償で報酬等に含まれず、労務の提供地が事業所であれば、自宅から出社するための費用は原則として通勤手当として報酬等に含まれる、としています。移動の中身ではなく、労働の対償かどうかで分かれています。
手を動かすのは給与計算と台帳の側
手の動かし方は、前の節の判断で二手に分かれます。実費弁償といえる旅費・日当は算定基礎から外し、実費弁償といえない日当は労働の対償として算定基礎に入れます。外す側だけを覚えると、保険料を少なく申告することになります。
| 場面 | 実費弁償といえる旅費・日当 | 実費弁償といえない日当 |
|---|---|---|
| 給与明細・賃金台帳 | 給与の欄と分けて記録する | 給与として記録する |
| 算定基礎届 | 報酬月額に入れない | 報酬月額に入れる |
| 月額変更届 | 固定的賃金の変動として扱わない | 固定的賃金として扱う(変動すれば随時改定の対象になりえます) |
| 労働保険の年度更新 | 賃金総額に入れない | 賃金総額に入れる |
どちらの列に入るかは名称では決まらないので、迷ったまま左の列で処理しないでください。支給の実態を整理したうえで、所轄の年金事務所・労働局か社会保険労務士に確認してください(要確認)。
事例集は在宅勤務手当について、一つの手当のうち実費弁償分が明確にされている部分とそれ以外の部分があるときは、実費弁償分は算定基礎に含める必要がなく、それ以外の部分は含まれるとしたうえで、実費弁償分の算出方法が就業規則・給与規程・賃金台帳等で明示されていることを求めています。出張の日当でも、規程と台帳で給与と分けて残しておくほど、説明は楽になります。
よくある間違い
- 名前が日当だから非対象と決める。見るのは名称ではなく実態です(前掲 事例集)。
- 旅費を給与と同じ欄で払う。台帳で区別できないと、分けていたことを後から示せません。
- 通勤手当を実費弁償として外す。通勤手当は報酬等にも賃金総額にも入ります(前掲 早見表)。
- 所得税で非課税だから社会保険でも非対象と考える。判断の枠が別なので、片方の結論をもう片方に持ち込めません。
- 赴任旅費と単身赴任手当をまとめて扱う。早見表では赴任手当等(実費弁償的なもの)と単身赴任手当が別の側に並びます。
まとめ
- 出張旅費が社会保険の報酬等にも労働保険の賃金総額にも入らないのは、旅費だからではなく、立て替えの実費弁償で労働の対償ではないからです。
- 一次情報が例に挙げているのは出張旅費で、日当という言葉ではありません。日当は、実費弁償といえる実態があるかで見ます。
- 実態を示すのは規程と記録です。支給事由と額を規程に書き、賃金台帳で給与と分けておきます。
次にやることは1つです。直近の賃金台帳を開いて、日当が給与と別の欄で記録されているかを確かめてください。同じ欄に混ざっていれば、そこから直します。Tabikan は規程に書いた日当の条件をそのまま精算の判定に使い、月次の精算書を給与とは別に出します。