出張の宿泊費は実費精算か定額支給か
出張の宿泊費を実費精算・上限付き実費・定額支給の3方式で比べ、所得税の非課税の線、消費税の帳簿のみの保存とインボイスの要否、上限の決め方、規程への落とし方を国税庁の出典付きで整理します。
出張の宿泊費は、金額を決める前に支給の方式を決めます。方式は実費精算・上限付き実費・定額支給の3つで、どれを選ぶかで本人に出させるものと精算書の欄が変わります。一方で、税の扱いの線は方式では動きません。所得税で給与にならないのも、消費税で帳簿のみの保存が使えるのも、「その旅行に通常必要であると認められる部分」までです。この記事では、3方式の違い、税の線、上限の決め方、規程への落とし方を順に扱います。想定しているのは、出張の精算を回している中小企業の経理・総務の方です。
宿泊費の支給方式は3つ。先に選ぶのは方式
| 方式 | 支給額 | 本人に出させるもの | 向く会社 |
|---|---|---|---|
| 実費精算 | 実際に泊まった額 | 宿泊先の領収書 | 出張の件数が少ない。出張先がばらける |
| 上限付き実費 | 実費のうち上限まで | 宿泊先の領収書 | 件数が多く、地域差も抑えたい |
| 定額支給 | 規程で決めた定額 | 泊まった日と泊数 | 出張先と宿泊単価が安定している |
迷ったら、直近1年の宿泊費の精算を出張先ごとに並べて、実績が1つの金額帯に収まっているかを見ます。収まっていれば定額支給が回り、ばらけていれば上限付き実費になります。先に金額から決めると、方式と合わない運用が残ります。定額支給なのに領収書を集めている、実費精算なのに上限が無い、という形がそれです。
どの方式でも、税の線は「通常必要と認められる範囲」
所得税では、役員や使用人に支払う手当は原則として給与所得になりますが、「転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの」は給与所得となりません(国税庁 タックスアンサー No.2508「給与所得となるもの」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2508.htm )。
この線は方式では動きません。実費精算でも定額支給でも、通常必要と認められる範囲を超えて払った部分は給与として扱われます。国税庁の説明資料も、通常必要であると認められる部分の金額を超える部分は使用人等に対する「給与」となり、消費税の仕入税額控除の対象外になると書いています(国税庁「インボイス制度における特例②(出張旅費等特例)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0024003-138.pdf )。
つまり定額支給で単価を上げすぎると、浮いた分が給与課税の側に回ります。定額にするときは「泊まれる額」ではなく「通常必要と認められる額」から考えます。
この「通常必要であると認められる部分の金額」は、所得税基本通達9-3《非課税とされる旅費の範囲》の例により判定するとされています(前掲の説明資料の注)。9-3 の原文は、この記事を書いた時点で読める形に取れなかったため、判定で何を勘案するかは書きません。自社の単価がこの範囲に収まるかは、税理士または所轄の税務署に確かめてください。
消費税は、方式が変わっても帳簿のみの保存でよい
国内の出張または転勤のために役員または使用人に支給した出張旅費・宿泊費・日当等は、支給した金額のうちその旅行について通常必要であると認められる部分の金額が課税仕入れになり、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除ができます(国税庁 タックスアンサー No.6459「出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6459.htm )。帳簿のみの保存で控除が認められる場合の列挙にも「従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等」が入っています(同 No.6496「仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6496.htm )。
この枠は方式で変わりません。国税庁のQ&Aは、社員に対する支給には概算払によるもののほか実費精算されるものも含まれるため、実費精算に係るものであっても、通常必要であると認められる部分の金額は帳簿のみの保存で仕入税額控除ができるとしています(問107-2「実費精算の出張旅費等」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/107-2.pdf )。社内規程や基準の有無も問われません(前掲の説明資料)。規程が無いから特例が使えない、という向きの話ではありません。
海外は別です。海外への出張または転勤のために支給した出張旅費・宿泊費・日当等は、原則として課税仕入れになりません(前掲 No.6459)。海外の規程は海外出張の旅費規程の作り方に分けてあります。
会社が宿泊先へ直接払う形は、同じ枠で考えない
近年は、会社が予約サイトや法人契約でホテル代を先に払い、本人は立て替えない形も増えています。この形は従業員への「支給」ではないので、特例の話ではなく、宿泊先の適格請求書を保存する側に寄ります。
国税庁のQ&Aも、実費精算が用務先へ直接対価を支払っているものと同視し得る場合には、通常必要と認められる範囲か否かにかかわらず、帳簿および社員から徴求した適格請求書等の保存により仕入税額控除を行うとしています(前掲 問107-2 の参考)。どちらに当たるかは個別の事情によるので、支払いの形を変えるときは税理士に確かめてください。特例の範囲そのものは出張旅費でインボイスの保存が不要になる範囲にまとめています。
方式ごとに変わるのは、残す書類と精算書の欄
| 決めごと | 実費精算・上限付き実費 | 定額支給 |
|---|---|---|
| 本人に出させるもの | 宿泊先の領収書(金額を確かめるため) | 泊まった日と泊数 |
| 精算書の欄 | 宿泊費の実費、上限を超えた理由 | 泊数と単価 |
| 差し戻しの原因 | 領収書の不足、上限超過 | 泊数の数え違い |
| 月次の手間 | 件数に比例して増える | ほとんど増えない |
実費精算で領収書を集めるのは、支給する金額を確かめるためです。適格請求書でなければ仕入税額控除ができない、という話ではありません。通常必要であると認められる部分は、実費精算でも帳簿のみの保存で控除できます(前掲 問107-2)。宿泊先が適格請求書発行事業者でないことを理由に精算を止める形にはしないでください。適格請求書を集める側に寄るのは、前の節のとおり、会社が宿泊先へ直接払ったものと同視し得る場合です。
欄の決め方は旅費精算書の書き方、帳簿への落とし方は旅費の会計処理と仕訳にまとめています。
上限の決め方
公表されている相場の平均額は、出所を一次情報で確かめられなかったため、この記事に金額は書きません。決める手順だけ示します。
- 直近1年の宿泊費の精算を出張先ごとに並べ、実績の分布を見る
- 分布から方式を選ぶ(1つの帯に収まるか、ばらけるか)
- 上限を1本にするか、出張先の地域で分けるかを決める
- 上限を超えるときの扱いを先に決める(事前承認の要否、承認者、超過分を自己負担にするか)
- 改定の時期を決める(宿泊単価は動くので、年1回など見直す月を置いておく)
4を欠くと、現場は上限を超えた予約を黙って自己負担するか、泊まったあとで例外を通してくれと言ってきます。どちらも規程の外で運用が決まる形なので、超過の扱いは条文に書きます。前泊・後泊の可否と、泊まれなかったときの宿の取消料は出張のキャンセル料は誰が負担するかで扱っています。
規程に書く項目
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 方式 | 実費精算・上限付き実費・定額支給のどれか |
| 金額 | 上限額または定額。別表に出して改定しやすくする |
| 区分 | 役職・地域・国内と海外で分けるか |
| 超過 | 事前承認の要否、承認者、自己負担の有無 |
| 証憑 | 何を出させるか(領収書、泊数の申告) |
| 期限 | 帰着後いつまでに精算するか |
規程全体の組み方は出張旅費規程の作り方と決める7項目、日当との関係は出張日当の計算方法と金額の決め方にあります。
よくある間違い
- 定額支給にしたのに領収書も集める(どちらの方式か決まっていない。精算書の欄を片方に寄せて止める)
- 泊まれる額から定額の単価を決める(線は通常必要と認められる範囲。前掲 No.2508・説明資料)
- 上限額だけ書いて、超えたときの扱いを書かない(例外が記録に残らない)
- 海外出張の宿泊費を国内と同じ枠で消費税を処理する(海外は原則として課税仕入れにならない。前掲 No.6459)
- 宿泊先が適格請求書発行事業者でないことを理由に、本人の実費精算を止める(通常必要と認められる部分なら帳簿のみの保存で控除できる。前掲 問107-2)
- 会社が宿泊先へ直接払う形に変えたのに、帳簿のみの保存を続ける(前掲 問107-2 の参考)
まとめ
- 宿泊費は金額より先に方式を決めます。直近1年の実績の分布を見れば、実費精算・上限付き実費・定額支給のどれが合うかは決まります。
- 所得税で給与にならない範囲も、消費税で帳簿のみの保存が使える範囲も、「その旅行に通常必要であると認められる部分」までで、方式では動きません(前掲 No.2508・No.6459・問107-2)。
- 上限を書くときは、超えたときの扱い(事前承認・承認者・自己負担)を同じ条文に書きます。
次にやることは1つです。直近1年の宿泊費の精算を出張先ごとに並べて、実績が1つの金額帯に収まっているかを確かめてください。収まっていなければ、定額支給は合いません。Tabikan は規程に書いた上限と泊数の判定を、そのまま精算の判定に使います。