出張の移動時間は労働時間になるのか

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出張中の移動時間が労働時間に当たるかは、就業規則の書き方ではなく指揮命令が及んでいたかで決まります。分かれ目と、会社が先に決めておく4つのことを整理します。

出張中の移動時間は、移動しているというだけでは労働時間になりません。分かれ目は、その時間に使用者の指揮命令が及んでいたか、本人による自由な利用が保障されていたかです。この記事では、労働時間になる場合とならない場合の線引きと、会社が先に決めておくことを整理します。想定しているのは、出張の多い従業員から移動時間の扱いを聞かれて困っている中小企業の総務・経理の方です。

出張の移動時間は、原則として労働時間ではない

扱いを決めるのは、移動した事実ではなく、その時間に何を命じていたかです。厚生労働省のテレワーク総合ポータルサイトの Q&A は、就業場所の間を移動する時間について、労働者による自由利用が保障されている時間は休憩時間として扱うことが考えられるとし、使用者が業務に従事するために必要な移動を命じ、その間の自由利用が保障されていない場合の移動時間は労働時間に該当するとしています(厚生労働省 テレワーク総合ポータルサイト Q&A「勤務時間の一部についてテレワークを行う際の移動時間は、労働時間になりますか。」 https://telework.mhlw.go.jp/info/qa/026/ )。

出張の移動も同じ物差しで見ます。新幹線や飛行機の中で本を読んでいても眠っていてもかまわない、というのが通常の出張です。この状態は指揮命令が及んでいるとは言いにくく、労働時間には当たらないと整理されます。

大事なのは、この判断が就業規則の書きぶりでは動かないことです。「移動時間は労働時間に含まない」と規程に書いても、実際に移動中の作業を命じていれば、その時間は労働時間として扱われます。

労働時間になるのは、移動そのものに指揮命令が及ぶとき

移動の場面労働時間か理由
自宅から出張先への往復で、過ごし方が本人に任されている当たらない指揮命令が及んでいない
移動中に資料作成やメール対応を指示している当たる移動中に業務に従事させている
現金・商品・機材の監視や運搬を伴う移動当たる移動そのものが命じられた業務
所定労働時間の中で行う移動当たるもともと労働時間の枠の中にある
出張先に着いてからの、訪問先の間の移動当たる業務の遂行として移動している
急な呼び出しで、移動中の自由利用が保障されない当たる指揮命令下にある

判断が割れるのは上2行の境目、つまり「移動中にメールを見ておいて」と言ったかどうかのような、指示ともつかない指示の部分です。ここを曖昧にしたまま運用すると、後になって本人の申告と会社の認識が食い違います。

会社が先に決める4つのこと

会社の側でやることは、一件ごとの判定ではなく、判定が要らない状態を作ることです。決めるのは次の4つです。

決めること決め方の例
移動中に業務を命じるかどうか原則として命じない。命じる場合は申請と承認で記録に残す
直行・直帰のときの始業と終業の時点直行は最初の訪問先に着いた時刻、直帰は最後の訪問先を出た時刻
所定労働時間内の移動の扱い労働時間として扱い、その日の実労働時間に含めて記録する
記録の残し方勤怠の記録か出張報告書に、移動と業務の開始・終了の時刻を分けて書かせる

2つめの直行・直帰は、決めていない会社が多いところです。規程に一文を置くだけで、勤怠と精算の両方の問い合わせが減ります。どの様式に何を書かせるかは出張申請書の記事と出張報告書の記事に、規程に置く項目の並びは出張旅費規程の記事にまとめています。

事業場外みなし労働時間制は「算定し難いとき」にしか使えない

出張の労働時間の話でよく出てくるのが、事業場外労働のみなし労働時間制です。労働基準法第38条の2第1項は、労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは所定労働時間労働したものとみなすと定めています。ただし、その業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合は、通常必要とされる時間労働したものとみなすとされ、同条第2項は、労使協定があるときはその協定で定める時間を通常必要とされる時間とするとしています(e-Gov 法令検索 労働基準法 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 )。

条件を読み違えないでください。使えるのは「労働時間を算定し難いとき」であって、事業場の外に出たこと自体は条件ではありません。携帯電話でいつでも連絡が取れ、訪問先と時刻を事前に申請させ、報告書で実績を出させている運用であれば、算定し難いとは言いにくくなります。何をもって算定し難いと言えるのかを先に説明できるようにしておいてください。なお、同条第2項の協定を結ぶ場合は、同条第3項により行政官庁への届出が必要です。

休日に移動させたときの扱い

金曜の夜や日曜に移動させる出張では、その日が休日労働になるのかが問題になります。休日の移動それ自体は業務ではないとする行政解釈がある、と紹介されることが多いのですが、その通達の本文は e-Gov・厚生労働省の一次情報で確認できませんでした。休日の移動を休日労働として扱うかどうかは、所轄の労働基準監督署か社会保険労務士に確認してください(要確認)。

確認を待つ間でも決められることはあります。休日に移動させる出張を事前申請の対象にすること、移動中に業務を命じないと明文化すること、休日の移動が続く部署では振替休日か代休の運用を決めておくことです。

日当を払っていることは、賃金を払ったことにならない

日当は出張に伴う費用を補うための支給であって、労働時間に対する賃金ではありません。日当を払っていることを理由に、労働時間に当たる移動の割増賃金を払わない、という整理はできません。

労働基準法第32条は、使用者は労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、1週間の各日については1日について8時間を超えて労働させてはならないと定めています。これを超えて労働させた場合や法定休日に労働させた場合は、同法第37条第1項により、通常の労働時間または労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないとされています(e-Gov 法令検索 労働基準法 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 )。日当の単価をいくらにしても、この計算は別に立ちます。日当そのものの決め方は日当の計算の記事で扱っています。

労働時間の把握については、厚生労働省が平成29年1月20日に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を策定しています(厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html )。出張の日も、社内にいる日と同じように始業と終業の時刻を確認して記録することになります。

よくある間違い

  • 規程に「移動時間は労働時間に含まない」と書いて済ませている。 実際に移動中の業務を命じていれば、その時間は労働時間です。書きぶりでは変わりません。
  • 移動中の指示を口頭で出している。 「着くまでに資料を直しておいて」は指示です。出すなら記録に残し、出さないなら出さないと決めます。
  • 外出したから事業場外みなし労働時間制を使えると考えている。 条件は労働時間を算定し難いことです。申請と報告で実績を押さえている運用では、使いにくくなります。
  • 日当を上げて割増賃金の代わりにしている。 性質の違う支給なので、代わりにはなりません。

まとめ

  • 出張の移動時間が労働時間かどうかは、その時間に指揮命令が及び、自由利用が保障されていなかったかで決まります。就業規則の書きぶりでは動きません。
  • 会社が決めるのは一件ごとの判定ではなく、移動中に業務を命じるか・直行直帰の始業と終業・所定労働時間内の移動・記録の残し方の4つです。
  • 事業場外みなし労働時間制は「労働時間を算定し難いとき」の制度です。申請と報告で実績を押さえているなら、使えると決めつけないでください。

まず直近の出張を10件ほど並べ、移動中に何か指示を出していた件がいくつあるかを数えてください。0件でないなら、先に決めるのは記録の残し方です。