出張中のけがは労災になるのか

公開

出張中の災害は、私用で寄り道した場合を除き、住居を出てから帰り着くまでの全行程で業務遂行性が認められます。外れる場面、会社が出す書類と期限、休業の最初の3日の扱いを労災保険法と労働局の資料で整理します。

出張中に従業員がけがをしたとき、それを労災と認めるかどうかを決めるのは会社ではなく労働基準監督署です。会社が決められるのは、何を記録し、どの書類をいつ出すかだけです。行政の整理では、出張中の災害は私用で寄り道したような場合を除き、用務先へ向かって住居または事業場を出たときから帰り着くまでの全行程にわたって業務遂行性が認められます(厚生労働省 石川労働局「業務災害について」 https://jsite.mhlw.go.jp/ishikawa-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/rousai_hoken/hourei_seido/kyufu/kyufu03.html )。この記事では、通勤災害との線、外れる場面、会社が出す書類、休業の最初の3日、記録の残し方を扱います。想定しているのは、出張の精算と労務の両方を見ている中小企業の経理・総務の方です。

出張中の移動は「通勤」ではないので、通勤災害にならない

労災保険の給付は、業務上の負傷等に関する業務災害と、通勤による負傷等に関する通勤災害に分かれます(労働者災害補償保険法第7条第1項第1号・第3号)。同条第2項は通勤を「労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除く」と定めています(e-Gov 法令検索 労働者災害補償保険法 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000050 )。出張の移動は会社の指示で用務先へ向かうものなので、この「業務の性質を有するもの」に当たり、通勤から外れます。自宅から直接空港や取引先へ向かう日でも、通勤災害ではなく業務災害の枠で見ます。

違いは請求書の様式に現れます。療養の給付の請求書は業務災害が様式第5号、通勤災害が様式第16号の3、休業は業務災害が様式第8号、通勤災害が様式第16号の6です(厚生労働省「雇用・労働主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousaihoken.html )。移動時間に賃金を払う義務があるかは別の法律の問題です(出張の移動時間は労働時間になるのか)。

業務災害から外れるのは、私用を積極的に行ったとき

石川労働局は、業務上と認められるには業務起因性が必要で、その前提として業務遂行性が必要だとし、事業主の支配・管理下にあっても就業中に私用やいたずらをしていた場合などは除かれると整理しています。出張で全行程に業務遂行性が認められるのも「私用で寄り道したような場合を除き」という条件つきです。本人の行為による制限も条文にあります。労働者が故意に負傷等またはその直接の原因となった事故を生じさせたときは保険給付は行われず、故意の犯罪行為または重大な過失により生じさせたときは、政府は保険給付の全部または一部を行わないことができるとされています(同法第12条の2の2第1項・第2項)。

会社が踏み越えやすいのは、「これは私的行為だから労災ではない」と自分で結論を出すことです。認定するのは所轄の労働基準監督署で、会社の役割は請求書の事業主の証明欄に事実を書くことです。

会社が出す書類は、本人の請求への証明と死傷病報告の2系統

動く書類は、本人が出す保険給付の請求書と、保険給付とは別に会社が出す労働者死傷病報告の2系統です。

出すもの誰が出すかいつまで
療養の給付請求書(様式第5号)本人。会社は証明欄を書く労災指定医療機関で受診するとき
療養の費用の請求書(様式第7号(1))本人。会社は証明欄を書く指定外の医療機関で立て替えたあと
休業補償給付の支給請求書(様式第8号)本人。会社は証明欄を書く賃金を受けない4日目以降
労働者死傷病報告(死亡または休業4日以上)会社遅滞なく、電子情報処理組織を使用して
労働者死傷病報告(休業4日未満)会社四半期ごと、その期間の最後の月の翌月末日まで

報告の根拠は労働安全衛生規則第97条です。第1項が死亡または休業したときの遅滞ない電子申請、第2項が休業4日未満の場合の四半期ごとの報告を定めています(e-Gov 法令検索 労働安全衛生規則 https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032 )。休業が1日でもあれば報告は要ります。療養補償給付と休業補償給付を受ける権利は行使できる時から2年、障害補償給付と遺族補償給付は5年で時効消滅します(労災保険法第42条第1項)。

休んだ最初の3日は、労災保険ではなく会社が補償する

休業補償給付は、業務上の負傷または疾病による療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第4日目から支給され、額は1日につき給付基礎日額の100分の60です(労災保険法第14条第1項)。これに休業特別支給金が同じく第4日目から、休業給付基礎日額の100分の20として加わります(e-Gov 法令検索 労働者災害補償保険特別支給金支給規則 https://laws.e-gov.go.jp/law/349M50002000030 第3条第1項)。申請は休業補償給付の請求と同時に行います。

問題は最初の3日です。労働基準法第76条第1項は、同法第75条の療養のため労働することができないために賃金を受けない場合には、使用者は平均賃金の100分の60の休業補償を行わなければならないと定め、第84条第1項は、労災保険法などにもとづいて相当する給付が行われるべき場合には使用者は補償の責を免れるとしています(e-Gov 法令検索 労働基準法 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 )。労災保険の給付は4日目からなので、業務災害ではこの3日について使用者の休業補償が残ります。通勤災害にこの義務はありません。通勤災害として処理すると、負担の所在まで取り違えます。

認定の前提になるのは、出張中どこにいたかの記録

全行程に業務遂行性が認められるという整理は、逆から読むと、どこからどこまでが出張だったかを示せることが前提だという意味です。事業主の証明も、残っている記録の範囲でしか書けません。出張のたびに次を残してください。

  • 出張の指示と承認の記録(誰が、いつ、どの用務のために命じたか)
  • 予定していた経路と宿泊先、実際に通った経路との差
  • 日ごとの行動(移動の開始・終了の時刻と、滞在した場所)
  • 災害が起きた日の時刻・場所・状況と、同行者の氏名

最初の2つは出張申請の様式で決まります(出張申請書に何を書かせるか)。3つ目は精算のための記録とほぼ同じなので、旅費と労災で別の台帳は要りません。規程には、災害が起きたとき誰へ連絡し、会社の誰が記録を確保するかを書いてください(出張旅費規程の作り方)。

Tabikan は出張中の移動と滞在を位置情報から日ごとに残すので、精算のために作った記録がそのまま行程の記録になります。

よくある間違い

  • 会社が「私的行為だから労災ではない」と判断して証明欄を書かない。認定するのは所轄の労働基準監督署です
  • 出張中の災害に通勤災害用の様式(第16号の3・第16号の6)を使う
  • 休業が4日未満だから報告は要らないと考える。四半期ごとの報告が要ります
  • 休業の最初の3日を無給にする。業務災害では労働基準法第76条の休業補償が残ります
  • 日当を払っているから補償は済んだと考える。日当は実費弁償で、賃金や補償ではありません(出張の日当に社会保険料はかかるのか)

まとめ

  • 出張中の災害は、私用で寄り道した場合を除き全行程で業務遂行性が認められ、業務災害として扱われます
  • 会社が出すのは、本人の請求書の証明欄と、労働安全衛生規則第97条の労働者死傷病報告の2系統です。休業が1日でもあれば報告は要ります
  • 業務災害として扱うと、休業の最初の3日について労働基準法第76条の休業補償が使用者に残ります。様式だけでなく負担の所在まで線を引いてください